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【食の安全・安心】完全栄養食だけで大丈夫?

  • 2023年09月26日
  • とりくみ・活動

【今月のテーマ】完全栄養食だけで大丈夫?

最近、いわゆる「完全栄養食」と呼ばれるパンやヌードル、冷凍食品などを見かけます。いずれも1 食分の主要な栄養素を過不足なく取れるように、原材料、添加物、製法などが工夫された加工食品です。これだけで健康になれるのでしょうか。

栄養、嗜好、生体調節の観点から見ると...

「完全栄養食」に明確な定義はありませんが、一般的には「日本人の食事摂取基準」を参考に、栄養素などの基準を満たすように開発された食品のことです。食事摂取基準は、厚生労働省が国民の健康のために望ましいエネルギーやタンパク質、脂質、炭水化物のほか、ビタミン13 種類とミネラル13 種類の指標を定めています(表)。

2023_10_copolo_anzen_anshin.jpg完全栄養食は、簡単に栄養バランスの整った1 食を取れることから注目を集めており、2023 年7 月には「一般社団法人 日本最適化栄養食協会」が設立されて健全な育成を目指していくそうです。

こうした食品だけを食べていれば栄養素は完全に取れそうですが、私たちの食事には「栄養に関わる機能」「嗜好に関わる機能」「生体調節に関わる機能」の3 つの機能があるとされており、この点から見ると課題があります。

まずは栄養について、完全栄養食ではビタミン・ミネラルなどが添加されていますが、一般的な食品はこれらの栄養素以外にもポリフェノールなど多種多様な機能性成分が含まれています。完全栄養食といっても、こうした効果までは期待できません。米国の研究ではサプリメントで摂取する栄養素は、食品に含まれる栄養素ほどの効果が認められなかったという結果も示されています。現時点では、完全栄養食によってどれほど健康になれるかは定かではありません。

また、嗜好については、「おいしさ」のこだわりは人によって異なりますが、普通の食品と味が異なるので続かない人もいるでしょう。食欲にも影響して、食が細くなったり、物足りなくて食べ過ぎたりすれば本末転倒です。

最後に生体調節については、咀嚼嚥下機能の低下が及ぼす影響が懸念されます。現状ではやわらかい形状のものが多く、時間がかからずに飲み込めるような食事が続くと、噛んだり飲み込んだりする機能が衰えます。高齢者で口から食べることが困難になった方が、流動食として完全栄養食を取ることがありますが、消化管が委縮するなど消化吸収能力が衰えることも報告されています。また、早食いは肥満のリスクもあります。

手間はかかるけれども「健康な食事」が一番

こうして見ていくと、完全栄養食だけで食事を取ることにはさまざまな課題があります。健康的な食生活のためには、複雑な栄養計算をしなくても、主食を基本に、肉や魚、卵、大豆などのタンパク質主体の「主菜」、野菜などの「副菜」そして汁物を組み合わせて、脂質や塩分を取り過ぎないよう注意すれば、概ね「健康な食事」となります。

こうした食事が準備できない時に完全栄養食を補助的に利用するなど、頼り過ぎずに上手に付き合ってみてはいかがでしょうか。


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食の安全・安心」は機関紙コーポロに毎月掲載しています。




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